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『最後の忠臣蔵』 「決算!忠臣蔵」公開ということで… 変わり種忠臣蔵映画 その2

2010年12月18日 公開

配給

ワーナー・ブラザーズ映画

原作

池宮彰一郎

監督

杉田成道

脚本

田中陽造

キャスト

役所広司佐藤浩市桜庭ななみ、安田成美、片岡仁左衛門ほか

 

 

内容紹介

TVシリーズ北の国から」を手がけた杉田成道が、池宮彰一郎の人気小説を役所広司佐藤浩市主演で映画化。赤穂浪士の吉良邸討ち入りで、大石内蔵助率いる46名が切腹により主君に殉じた中、密かに生き残った瀬尾孫左衛門(役所)と寺坂吉右衛門(佐藤)という2人の武士がいた。討ち入りの事実を後世に伝えるため生かされた寺坂は、事件から16年後、討ち入り前夜に逃亡した瀬尾に巡り会い、瀬尾の逃亡の真相を知る。(映画.comより)

 

 

感想

今作は前回紹介した「四十七人の刺客」の脚本家であり原作者でもある池宮彰一郎が原作だ。「四十七人の刺客」の終盤で大石に愛人と子どもを託された瀬尾孫左衛門が今作の主人公。吉良邸討ち入り後に生き残った彼の生き様が描かれる。「四十七人の刺客」の実質続編といえる作品で今作と合わせて2本見るとより楽しめるだろう。

 

吉良邸討ち入りから16年、瀬尾孫左衛門(役所広司)は名前も身分も変え、人里離れた地でひっそりと生きていた。そこにはかね(桜庭ななみ)という少女がおり、彼女こそ大石が吉良邸討ち入り前に孫左衛門に託した忘れがたみであった。孫左衛門はかねの母亡き後、男で一つでかねを育てていた。

 

大石の最後の命令というか頼みを16年間ただひたすらに守り遂行する孫左衛門を演じる役所広司の演技が素晴らしい。孫左衛門は元々大石の側に常に仕えていた用人で誰よりも大石とともに死にたかったであろう人物である。大石への思いが人一倍強い孫左衛門は託された使命を守ろうとノイローゼかというくらい用心深く行動している。かねの身を守るために誰に対しても穏やかでありながら壁が一枚あるような、相手に深入りさせない張りつめた雰囲気をまとっている。用心深い一方彼は嘘のつけない誠実な男だ。元赤穂藩士に再会し、なじられ蹴られても反抗も言い訳もしない。頭を下げたまま使命があると言い続ける。かつての親友寺坂吉右衛門佐藤浩市)に再会し、秘密を知られたときは何も言わずに斬りかかる。使命を秘めた自らの悲しみ苦しみを吐き出すかのように斬りかかる孫左衛門の姿は悲壮感たっぷりだ。

口下手で誠実でおよそ密命を託されるのに最も向いていない男が、誰よりも大石とともに死にたかった男が必死に生き抜いて苦しみながらも使命を果たそうとする姿に泣かされる。

優しさ、狂気、虚無感、愛情と様々な感情入り混じる表情・演技を役所広司が見せてくれる。

 

役所広司の圧倒的な演技に負けず劣らずの演技を見せているのが、かねを演じる桜庭ななみだ。大石の娘である宿命を背負ったかねの、凛と大人びた雰囲気を演じている。自らの運命を理解しながらも育ての親である孫左衛門に惹かれており、その思いに気づかない孫左衛門に思わず腹を立ててしまう少女相応の感情も見せてくれる。そんなかねだが、父とそして孫左衛門、さらに元赤穂藩士たちの思いを背負い輿入れを決める。輿入れ前に嫁入り衣装で最後に孫左衛門と穏やかに抱擁を交わす。それはかね自らの思いとの決別の時、さらに孫左衛門の長い使命の終わりの時でもあり、涙なしには見られない。

少女と大人の間と、さらにそこから大人へと変わっていく姿、どちらをとっても繊細で複雑な女性の瞬間を見事に演じている。

 

最後討ち入りに参加できなかったかつての赤穂藩士やゆかりのものが続々と嫁入りにはせ参じてくる場面、そして孫左衛門の本懐が明らかになり、遂げる場面は心ふるわされる。

 

行灯の火の自然な温かみが感じられる落ち着いた画作りと俳優たちの繊細な演技があわさり、かみしめるような情感が味わえる作品だった。