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『木枯し紋次郎 関わりござんせん』 「多十郎殉愛記」公開 中島貞夫の時代劇 その2

1972年9月14日 公開 

配給

東映

原作

笹沢佐保

監督

中島貞夫

脚本

野上龍雄

キャスト

菅原文太大木実伊達三郎、中村英子、田中邦衛市原悦子ほか

 

 

あらすじ

縞の合羽に三度笠、口の楊枝がヒュンと鳴る、御存じ・木枯し紋次郎
渡世人に振り返るべき過去はない。振り返ってもいやな思い出しかないのだ。死に急ぐように、追われるように、旅を急ぐ紋次郎。ある賭場の帰り、若い渡世人・常平を助けた紋次郎は、恩返しにと女郎屋に連れていかれる。そこで知り合ったお光が、実は……!?
キャストは、木枯し紋次郎を演じてまさにハマリ役の菅原文太を筆頭に、市原悦子田中邦衛ら豪華演技陣が顔を揃えて放つ人気シリーズ第2弾。
鬼才・中島貞夫監督が、迫力ある映像で魅せる傑作時代劇!!(amazon 内容紹介参照)

 

 

感想

 前作で兄弟分に裏切られ、惚れた女にまで裏切られるという地獄を見た紋次郎。

今作では紋次郎の生い立ちが語られる。彼の地獄は生まれた時から始まっていた

 

冒頭、紋次郎は生後間もない赤ん坊を間引きしようとする女に出会う。珍しく感情的になり女を引き止め説得する紋次郎。間引きされかけた事実は生涯その子につきまとうと。

しばらく暮らせるぐらいの金子を置いていく紋次郎だが、その後母子ともども心中し死んでしまう。

 

もう最初から地獄の展開。しかし今作これは地獄の入り口にすぎない。

紋次郎は心中した母子を見て自らの過去を思い出す。彼も母親に間引きされかけた過去があった。その時の出来事が今でも紋次郎に暗い影をさしている。

しかしそれと同時に温かい思い出もある。間引きされかけた紋次郎を救ってくれたのはは姉だった。このことが紋次郎にまだ人情というものを思い出させてくれる。

しかしそんな姉も女郎屋に売られてから行方知らずだった。

 

紋次郎は旅の途中に立ち寄った旅籠で以前命を救った八幡の常平(田中邦衛)と再会しもてなしを受ける。常平に女郎を当てがわれる紋次郎。女郎の名ははお光(市原悦子)という。酒を飲みながら唄をうたうお光。紋次郎はお光の唄に衝撃を受ける。お光こそかつて赤子の紋次郎を救った実の姉だった。

 

生き別れた姉弟の再会。さぞ感動的な展開になると思うだろう。しかし前作から仁義も人情もことごとく裏切られてきた紋次郎を見ているからむしろこれからが不穏で不安でしかたない。そしてその予感通りこれからさらに地獄が続いていく。

 

後にお光も紋次郎が実の弟であると知る。しかし女郎屋での日々は優しかったお光をすっかり変えてしまった。お光は自らの地獄から抜け出すために渡世で名をはせる紋次郎を利用しようとする。

今作で強烈な個性を放っているのはお光を演じた市原悦子だろう。菅原文太演じる紋次郎にすがりつく姿はたとえウソだとわかっていても彼女を捨てることはできない。そう感じさせる呪いのような哀しさを帯びていた。

 

お光の借金をダシに紋次郎を抱き込もうとするヤクザの親分が現れるが、紋次郎はその話に乗らず自らの手で金を作りお光を救い出すと言い、旅立つ。

しかしお光は紋次郎の思いに気が付かず親分の囲い者になる。親分は再びお光を利用して今度は紋次郎の首を狙う。紋次郎を罠にかけるよう言われたお光は…

 

お光のかつての優しい姿がまだ瞼にある紋次郎。最後にお光の心は戻るのか、というと待っているのはやっぱり地獄。お光は女郎屋で虐げられる日々を送っていたが、そこから抜け出しても今度はヤクザから虐げられることになる。行き着くところが結局変わらないことに彼女は絶望する。お光の虚脱した表情はあまりにも哀れだ。

 

前作に続いて今度は実の姉にまで裏切られる紋次郎

唯一の良心常平を演じる田中邦衛の存在がこの地獄巡りの旅にわずかな安らぎを与えてくれる。

 

 

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