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『蠢動』 「武蔵ーむさしー」公開 三上康雄の時代劇

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2013年10月19日 公開

配給

太秦

原案

三上康雄

監督

三上康雄

脚本

三上康雄

キャスト

平岳大若林豪目黒祐樹中原丈雄さとう珠緒栗塚旭、脇崎智史

 

 

内容紹介

1970年代に自主制作映画を多数手がけて注目を集め、2001~11年までは家業である建設資材メーカー「ミカミ工業株式会社」(大阪府東大阪市)社長を務めていた三上康雄監督が、再び映画製作に復帰し、82年に製作した16mm作品「蠢動」をセリフリメイクした本格時代劇。享保の大飢饉から3年がたち、世の中が落ち着きを取り戻しつつあった享保20年。山陰の因幡藩に幕府から遣わされた剣術指南役の松宮十三がやってくる。しかし、松宮の動きに不審な点があるとの報告を受けた城代家老の荒木源義は、用人の舟瀬太悟に松宮の動向を探るよう命じる。(映画.comより)

 

 

感想

時代劇の自主映画を数多く手がけた三上康雄監督による今作。

自身も時代劇ファンであることを公言する三上監督は今現在見たいと思う時代劇がないため自分で作ったという。

 

今作の注目ポイントはラストの雪中の大乱闘に集約されたドラマ、ロジックのしっかりした殺陣だ。

時代劇を愛してやまない監督ならではのこだわりが随所に見られる。

 

冬を迎えた山深い因幡藩(今の鳥取県)に幕府から遣わされた剣術指南役の松宮(目黒祐樹)がやってきたことで小さな波紋が生まれる。

藩の剣術指南役原田(平岳大)が目をかけている若い藩士香川(脇崎智史)が稽古で組み技を交えた実践的な剣法を使ったことが、松宮から見苦しいと叱責されてしまう。このことが、香川とかねてから香川を良く思っていない藩士との間にさらなる火種を生んでしまう。

 

香川が藩士たちに白い目で見られるのには理由があった。香川の父はかつて藩を窮地に追い込んだ咎で切腹させられていた。本当は幕府による藩の取り潰しを防ぐために全ての罪を背負い何も言わずに死んでいったのだが、真実を知る者は香川を含め、近しい者と原田、一部の重役のみである。

香川は父にすべてを背負わせた藩に対してやりきれない思いを抱えていた。

 

そんな中、松宮が幕府の隠密であることが判明。家老の荒木(若林豪)と用人の舟瀬(中原丈雄)は松宮に飢饉を乗り切った際の藩の秘密を握られてしまったことを知り、藩を守るために松宮の暗殺をもくろむ。原田に松宮暗殺を命じ、さらに松宮と遺恨のある香川に全ての罪を背負わせようとする。

 

今作は色彩の少ない画が印象的だ。寒空のもと元気に力強く稽古に励む若い藩士たちに比べて、重役たちはくたびれた様子で覇気がない。灰色の画面と相まって藩の行き先に不安と不穏な空気が漂う。

物語は淡々と進んでいき、劇中タイトルが出てから終盤までBGMは環境音のみだ。藩士が橋の板を踏む足音と板がきしむ音。密談中、闇夜をわずかに照らすロウソクがチリチリと燃える音。なんでもないような環境音だが、足音の数の違い、歩く音と走る音、ロウソクの燃える音の違いなど物語が動くシーンで使い分けられており、平穏な日々の崩壊という不安が近づいていることが環境音のみでビシビシ伝わってくる。

 

そして今作を語る上で欠かせないのは何といっても殺陣だ。

まず大乱闘のシーンから。

最初の若い藩士たちの稽古のシーン。香川の体格を活かした体ごとぶつかり、組みつき、確実にとどめを刺すための戦い方。これが終盤の大乱闘の伏線になっている。

 

終盤松宮暗殺の咎を背負わされた香川は自分が藩に陥れられたことに気が付き、咆哮しながら雪山を走り回る。ここで劇中初めて環境音以外のBGMが使われる。和太鼓が走るシーンに合わせて激しく鳴り響く。これが映画を観る者の感情を一気に高ぶらせる。

劇中張りつめていた緊張、不安、不満、怒りが一気に爆発する。

 

ここからの雪中の大乱闘が凄まじい。

監督が言うには雪は一度踏んでしまうともう一度雪が積もらない限り元には戻らないので、長間回しと一発撮りで役者が転んでもアクションを続けさせたという。

 

追っ手に遣わされた同門の藩士たちに追い詰められた香川。一対多数の圧倒的不利な状況で雪中の大乱闘が始まる。しかし降り積もった雪が香川に味方する。おぼつかない足場ゆえにしっかり踏み込んで斬りこむことができない。

ここで香川が今まで鍛錬してきた剣法が活きてくる。転げまわりながら体ごと投げ出し相手を斬る、組みつき腕を封じて確実にとどめを刺す、打撃技を容赦なく繰り出す、傷を負わせた敵を盾に息を整えるなど数的不利、足場の悪さ、剣の未熟さをカバーするための合理的な戦い方で次々と追っ手を葬っていく。

泥臭いリアリズムと、しっかりしたロジックによって構築された殺陣は必見だ。

 

また一対一の決闘も素晴らしい。

まず最初に原田対松宮の戦い。松宮暗殺を命じられた原田は真剣を使い稽古を行う。真剣が風を斬る音、刀を納めたときのチーンという金属音が今までの場面では聞いたことのない音で不気味で張りつめた雰囲気を醸し出す。

そして原田は松宮に夜襲をかける。真っ暗闇の道中、酒を呑み酔っている松宮と対峙する原田。原田は斬りこむが松宮は見事に応戦してくる。提灯を捨て構える松宮。

しかし勝負は一瞬で決まる。原田に押し込められ、松宮は自らの捨てた提灯に足を取られてしまう。その隙を見逃さなかった原田は松宮を一太刀で斬る。

 

紙一重の差によって一瞬で勝敗が決する達人同士の決闘を堪能できる殺陣だ。

 

もう一つの決闘はラストの悲劇的な師弟対決だ。

原田は乱戦を終えたばかりの香川と雪中で向き合う。戦いは避けられないことを悟った2人はほとんど言葉を交わさず、刀を抜いて向き合う。

一瞬目線を下におくる香川。降り積もった雪を足で探りながら両者間合いを取る。

やや長めに間合いを取る2人。原田は上段に構える。

香川の足元に視線を集中させる原田。先に動く香川。香川の動きを見てから視線を戻す原田。

互いに突き技を繰り出し刺し違える形になる。両者深手を負うが香川が先に倒れる。

その場から立ち去る原田だが、最後香川は息を吹き返す。

 

目配せと間合いで勝負を制した師匠である原田の強さが際立つ殺陣だ。

しかしそれだけではなく原田の香川に対する情の深さもうかがえる感情的な殺陣でもある。

監督もコメントしているが原田は香川の祖での下から刀を突き刺している。香川が急所である胸を狙ったのに対して原田はわざと急所を外している。

原田が非情に徹しきれず、情けをかけたことを殺陣で、アクションで見事に表している。

 

 

乱戦に決闘、そしてただ斬ったはったではなく、それに集約していくドラマ。

時代劇における最大の魅力である殺陣の面白さ、豊かさを思う存分堪能できる一作だ。

 

 

今作はamazon、U-NEXTでも配信されてます。