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『闇の歯車』(主演:仲代達矢)  「闇の歯車」新旧2作を見ての感想

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1984年 放送

放送局

フジテレビ系

原作

藤沢周平

監督

井上昭

脚本

隆巴(宮崎恭子

キャスト

仲代達矢役所広司東野英治郎、鷲生功、殿山泰司益岡徹ほか

 

 

内容紹介

仲代達矢扮する盗人・伊兵衛と底辺の人々の哀歓を細やかに追う人情時代劇。絵師の伊兵衛は、様々な事情から大金を必要としている男たちを集めた。遊び人の佐之助、浪人の清十郎、夜具商の仙太郎、老人の弥十の四人。実は伊兵衛は盗人で素人を仲間にして、札差の妾宅を狙っていたのだ。(テレビドラマデータベースより)

 

 

感想

『闇の歯車』仲代版と瑛太版の2作がやっと見れた。この2作どちらも全く違うアプローチで映像化していたのが面白かった。ここでは仲代版についていろいろ書いていく。

 

まず主役が異なる。瑛太版では瑛太演じる佐之助が主役だが、仲代版では仲代演じる伊兵衛が主役だ。伊兵衛は行きつけの居酒屋の顔見知りたちに押し込み強盗の話を持ち掛ける。

伊兵衛の誘った男たちは皆訳アリ。ゆすり、脅しを生業にしている裏社会に片足が浸かった佐之助(役所広司)、病気の妻がいるうえに敵持ちの浪人清十郎(益岡徹)、結婚が近いのに別れられない愛人がいる仙太郎(鷲生功)、娘に邪険に扱われて家に居場所がない前科者の老人弥十(殿山泰司)。彼らの気晴らしは行きつけの酒屋でちびちび酒を飲むことくらいだった。

 

裏社会から足を洗って惚れた女を身請けしたい、妻の介護代が必要、愛人の手切れ金がいる、家から出て新天地で気軽に暮らしたい。スケールは小さいが現代人でも想像、共感できる何とも生々しい悩みと願望をそれぞれが抱えている。

 

黒い影、闇が深い画。希望のない暮らしを象徴するかのような消え入りそうな灯り。苦しい生活に追い打ちをかけるように降りしきる雨。うだつの上がらない彼らの身の上を表すような情感のある画作りが印象的だ。この情感こそが今作の特徴といえるだろう。

 

新旧「闇の歯車」の味わいを異にしているのは伊兵衛というキャラクターの描かれ方の違いによるものが大きい。素人たちを押し込み強盗に誘う得体の知れない存在。素人を誘ったのは足もつきにくいし、小市民性のおかげで口は堅いし、欲張ってバカな行動も起こさないと見越してのこと。これだけだと伊兵衛は狡猾で不気味な男に見える。

今作では伊兵衛の人間性についても細やかに描写されている。伊兵衛はひょんなことから夫に勘当された近所の女房を家においてやることになるが、女とのやりとりで伊兵衛はどんな人間か段々と分かってくる。

雨に濡れた女のために火を焚いてやる伊兵衛。火の灯りに照らされた伊兵衛の顔は優しさに満ちている。伊兵衛という人間を血の通った情のある一人の人間として描いている。物語のラストにもそれが表われている。

 

5人は入念な準備のもと不吉な時刻とされ、人通りがぱったり途切れる昼と夜が移り変わる逢魔時に押し込みを決行する。途中伊兵衛と佐之助が予期せぬトラブルに見舞われながらも金を盗むことに何とか成功する。しかし初めから決まっていたことなのか、逃れられぬ皮肉な運命が5人を待ち受けていた。

 

他にも清十郎を追ってきた侍(河原崎次郎)の苦労してきた様子が見た目だけでわかるビジュアルとか、佐之助と雇い主の元締めの立場と力関係が映像で語られているとかセリフに頼らず画で見せる印象的なシーンがいくつもある。

 

今作だけでも十分楽しめるが瑛太版と見比べるとより一層面白さを発見できると思う。

 

『闇の歯車』(仲代版)は現在アマゾンプライムビデオの時代劇専門netでみることができる。