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『薄桜記』 「決算!忠臣蔵」公開ということで… 変わり種忠臣蔵映画 その3

1959年11月22日 公開

配給

大映

原作

五味康祐

監督

森一生

脚本

伊藤大輔

キャスト

市川雷蔵勝新太郎、真城千都世ほか

 

 

内容紹介

浪人の中山安兵衛は叔父の助勢に高田馬場へ駆けつける途中、旗本の丹下典膳と知り合い、彼の助言によって決闘の相手を打ち倒した。典膳は同門の知心流の加勢をしなかったことを非難されて道場を破門になり、安兵衛もまた堀内流を破門された。ともに上杉家江戸家老の名代の妹・千春へ思いを寄せる二人は偶然に翻弄され、流転の運命を辿る――。(amazon 内容紹介より)

 

 

感想

忠臣蔵映画には外伝ものがいくつかある。松本俊夫の「修羅」、深作欣二の「忠臣蔵外伝 四谷怪談」等がある。今作もそんな忠臣蔵外伝の1つだ。

主演は市川雷蔵。四十七士の一人中山安兵衛と友情を結ぶ隻腕の剣士丹下典膳を演じる。

今作では市川雷蔵という役者が持つ魅力を存分に堪能できる。

 

この丹下典膳という男は悲劇的な運命が常に身につきまとう男だ。中山安兵衛(勝新太郎)に好感を抱いてしまい、高田馬場の決闘で安兵衛の相手が典膳の剣の同門であっても助太刀せずに姿を消した。仲間を捨てたと責められた典膳は道場を破門される。また典膳には将来を誓い合う千春(真城千都世)という女がいた。しかし典膳を恨む元同門の男たちに千春が凌辱されてしまう。千春に咎がないよう取り計らう典膳だったが、互いに思い合っていてもどうしても千春を受け入れることができない。同門たちへの復讐を決意した典膳は千春と離別するが、怒った彼女の兄に問い詰められても千春の秘密を守るためワケは話さなかった。激情した義兄は刀を抜いたが典膳はその一刀を避けなかった。片腕を代償に典膳は千春たちの前から姿を消した。

 

剣を破門される、婚約者を犯される、片腕を落とされる。これほど悲惨な目にあっても雷蔵から感じるものは惨めさではない。一人の女を思いやり、自らの信念を貫く気高さ、美しさだ。

 

そして雷蔵の魅力が集約されているのがラストの殺陣だ。

 

典膳は隻腕となっても剣の腕を買われ、吉良の警護に雇われる。そこで千春を凌辱したかつての道場生たちを見つけ復讐を開始する。しかし思わぬ反撃にあい、足を銃撃されてしまう。片足まで使えなくなってしまった典膳。道場生たちは仲間の浪人たちを大勢引き連れ典膳宅に押し入る。そこには今にも絶えてしまいそうに横たわる典膳の姿があった。とうてい勝ち目はないが典膳は浪人たちに勝負を申し込む。

ここからが凄まじい。

浪人たちは典膳の申し入れを受け入れ、戸板を担架にして寝たままの典膳を庭に運ぶ。横になったまま鞘を口にし、刀に手をかける典膳。浪人たちがいよいよ襲い掛かってくる。典膳は寝たまま一人斬り伏せる。驚く浪人たちだが、数にものを言わせ斬りかかる。地面を転がり回り、何とか膝立ちになり必死に一人また一人斬っていく。しかし手傷を負わされ次第に弱っていく典膳。それでもなお斬りかかっていく。

雪が降りしきる中、静かに行われる決闘。典膳は弱り斬られても声をあげない。しかしこの殺陣は言い知れぬ迫力に満ちている。死の淵にある男の儚くも燃える最後の執念、情念が溢れている。

 

様々な悲劇に見舞われ、最後は這いつくばりながら戦う典膳。無様で泥臭い印象を与えかねない役だが、雷蔵からは悲劇的な儚さと美しさを感じる。しかし決してキザではなく一人の人間の情念を醸し出している。

 

今作は美しさと気品を具えながら、情感にもあふれている市川雷蔵という稀有な名優を堪能できる傑作だ。