なんでも時代劇

時代劇とか映画とかドラマとかアニメとか

『蠢動』 「武蔵ーむさしー」公開 三上康雄の時代劇

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2013年10月19日 公開

配給

太秦

原案

三上康雄

監督

三上康雄

脚本

三上康雄

キャスト

平岳大若林豪目黒祐樹中原丈雄さとう珠緒栗塚旭、脇崎智史

 

 

内容紹介

1970年代に自主制作映画を多数手がけて注目を集め、2001~11年までは家業である建設資材メーカー「ミカミ工業株式会社」(大阪府東大阪市)社長を務めていた三上康雄監督が、再び映画製作に復帰し、82年に製作した16mm作品「蠢動」をセリフリメイクした本格時代劇。享保の大飢饉から3年がたち、世の中が落ち着きを取り戻しつつあった享保20年。山陰の因幡藩に幕府から遣わされた剣術指南役の松宮十三がやってくる。しかし、松宮の動きに不審な点があるとの報告を受けた城代家老の荒木源義は、用人の舟瀬太悟に松宮の動向を探るよう命じる。(映画.comより)

 

 

感想

時代劇の自主映画を数多く手がけた三上康雄監督による今作。

自身も時代劇ファンであることを公言する三上監督は今現在見たいと思う時代劇がないため自分で作ったという。

 

今作の注目ポイントはラストの雪中の大乱闘に集約されたドラマ、ロジックのしっかりした殺陣だ。

時代劇を愛してやまない監督ならではのこだわりが随所に見られる。

 

冬を迎えた山深い因幡藩(今の鳥取県)に幕府から遣わされた剣術指南役の松宮(目黒祐樹)がやってきたことで小さな波紋が生まれる。

藩の剣術指南役原田(平岳大)が目をかけている若い藩士香川(脇崎智史)が稽古で組み技を交えた実践的な剣法を使ったことが、松宮から見苦しいと叱責されてしまう。このことが、香川とかねてから香川を良く思っていない藩士との間にさらなる火種を生んでしまう。

 

香川が藩士たちに白い目で見られるのには理由があった。香川の父はかつて藩を窮地に追い込んだ咎で切腹させられていた。本当は幕府による藩の取り潰しを防ぐために全ての罪を背負い何も言わずに死んでいったのだが、真実を知る者は香川を含め、近しい者と原田、一部の重役のみである。

香川は父にすべてを背負わせた藩に対してやりきれない思いを抱えていた。

 

そんな中、松宮が幕府の隠密であることが判明。家老の荒木(若林豪)と用人の舟瀬(中原丈雄)は松宮に飢饉を乗り切った際の藩の秘密を握られてしまったことを知り、藩を守るために松宮の暗殺をもくろむ。原田に松宮暗殺を命じ、さらに松宮と遺恨のある香川に全ての罪を背負わせようとする。

 

今作は色彩の少ない画が印象的だ。寒空のもと元気に力強く稽古に励む若い藩士たちに比べて、重役たちはくたびれた様子で覇気がない。灰色の画面と相まって藩の行き先に不安と不穏な空気が漂う。

物語は淡々と進んでいき、劇中タイトルが出てから終盤までBGMは環境音のみだ。藩士が橋の板を踏む足音と板がきしむ音。密談中、闇夜をわずかに照らすロウソクがチリチリと燃える音。なんでもないような環境音だが、足音の数の違い、歩く音と走る音、ロウソクの燃える音の違いなど物語が動くシーンで使い分けられており、平穏な日々の崩壊という不安が近づいていることが環境音のみでビシビシ伝わってくる。

 

そして今作を語る上で欠かせないのは何といっても殺陣だ。

まず大乱闘のシーンから。

最初の若い藩士たちの稽古のシーン。香川の体格を活かした体ごとぶつかり、組みつき、確実にとどめを刺すための戦い方。これが終盤の大乱闘の伏線になっている。

 

終盤松宮暗殺の咎を背負わされた香川は自分が藩に陥れられたことに気が付き、咆哮しながら雪山を走り回る。ここで劇中初めて環境音以外のBGMが使われる。和太鼓が走るシーンに合わせて激しく鳴り響く。これが映画を観る者の感情を一気に高ぶらせる。

劇中張りつめていた緊張、不安、不満、怒りが一気に爆発する。

 

ここからの雪中の大乱闘が凄まじい。

監督が言うには雪は一度踏んでしまうともう一度雪が積もらない限り元には戻らないので、長間回しと一発撮りで役者が転んでもアクションを続けさせたという。

 

追っ手に遣わされた同門の藩士たちに追い詰められた香川。一対多数の圧倒的不利な状況で雪中の大乱闘が始まる。しかし降り積もった雪が香川に味方する。おぼつかない足場ゆえにしっかり踏み込んで斬りこむことができない。

ここで香川が今まで鍛錬してきた剣法が活きてくる。転げまわりながら体ごと投げ出し相手を斬る、組みつき腕を封じて確実にとどめを刺す、打撃技を容赦なく繰り出す、傷を負わせた敵を盾に息を整えるなど数的不利、足場の悪さ、剣の未熟さをカバーするための合理的な戦い方で次々と追っ手を葬っていく。

泥臭いリアリズムと、しっかりしたロジックによって構築された殺陣は必見だ。

 

また一対一の決闘も素晴らしい。

まず最初に原田対松宮の戦い。松宮暗殺を命じられた原田は真剣を使い稽古を行う。真剣が風を斬る音、刀を納めたときのチーンという金属音が今までの場面では聞いたことのない音で不気味で張りつめた雰囲気を醸し出す。

そして原田は松宮に夜襲をかける。真っ暗闇の道中、酒を呑み酔っている松宮と対峙する原田。原田は斬りこむが松宮は見事に応戦してくる。提灯を捨て構える松宮。

しかし勝負は一瞬で決まる。原田に押し込められ、松宮は自らの捨てた提灯に足を取られてしまう。その隙を見逃さなかった原田は松宮を一太刀で斬る。

 

紙一重の差によって一瞬で勝敗が決する達人同士の決闘を堪能できる殺陣だ。

 

もう一つの決闘はラストの悲劇的な師弟対決だ。

原田は乱戦を終えたばかりの香川と雪中で向き合う。戦いは避けられないことを悟った2人はほとんど言葉を交わさず、刀を抜いて向き合う。

一瞬目線を下におくる香川。降り積もった雪を足で探りながら両者間合いを取る。

やや長めに間合いを取る2人。原田は上段に構える。

香川の足元に視線を集中させる原田。先に動く香川。香川の動きを見てから視線を戻す原田。

互いに突き技を繰り出し刺し違える形になる。両者深手を負うが香川が先に倒れる。

その場から立ち去る原田だが、最後香川は息を吹き返す。

 

目配せと間合いで勝負を制した師匠である原田の強さが際立つ殺陣だ。

しかしそれだけではなく原田の香川に対する情の深さもうかがえる感情的な殺陣でもある。

監督もコメントしているが原田は香川の祖での下から刀を突き刺している。香川が急所である胸を狙ったのに対して原田はわざと急所を外している。

原田が非情に徹しきれず、情けをかけたことを殺陣で、アクションで見事に表している。

 

 

乱戦に決闘、そしてただ斬ったはったではなく、それに集約していくドラマ。

時代劇における最大の魅力である殺陣の面白さ、豊かさを思う存分堪能できる一作だ。

 

 

今作はamazon、U-NEXTでも配信されてます。

 

『闇の歯車』(主演:瑛太) 「闇の歯車」新旧2作を見ての感想

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2019年1月19日 公開

2019年2月24日 放送

配給

東映ビデオ

原作

藤沢周平

監督

山下智彦

脚本

杉田成道

キャスト

瑛太橋爪功緒形直人大地康雄中村蒼中村嘉葎雄ほか

 

 

内容紹介

時代劇専門チャンネルの開局20周年記念作品として、藤沢周平作品としては珍しいサスペンス時代小説を瑛太橋爪功の共演で映像化。初秋の江戸・深川。闇の世界に生きる佐之助は、行きつけの酒亭おかめで出会った謎の男・伊兵衛から儲け話を持ちかけられるが、危険な匂いを感じ、その時は誘いを断った。しかし、おくみという女と暮らすこととなり、女との未来にわずかながらの希望を抱く佐之助は、伊兵衛の誘いに乗ることに。伊兵衛の儲け話に乗ったのは、浪人、若旦那、白髪の老人、そして佐之助。いつもおかめで顔を合わしながら、一度も口を聞いたこともない男たち。押し込みなどしたことがない4人の素人が、伊兵衛の手引きにより、ある商家に眠る七百両を狙うが……。監督は「鬼平犯科帳 THE FINAL」「三屋清左衛門残日録」シリーズを手がける山下智彦。2019年2月の時代劇専門チャンネルでの放送に先がけ、期間限定で劇場上映。(映画.comより)

 

 

感想

時代劇専門チャンネル放送前に丸の内TOEIにて観た今作。昔のテレビドラマ版を最近観ることができたので両作見た上での今作の特徴について書いていく。

キーワードはサスペンス、ノワール、ケイパーものだ。

 

ストーリーは内容紹介に書いてあるとおりドラマ版と大差ないが主人公が瑛太演じる佐之助となっている。

前作での特徴でも述べたが同じ原作である両作の雰囲気を異にしている最大の特徴は盗人伊兵衛のキャラクターの描かれ方だ。

昔のドラマでは伊兵衛を含めた押し込み強盗をおこなう5人の男たちの人間模様がそれぞれの視点から描かれていた。つまり盗みに巻き込む側と巻き込まれる側、両方の内面が細やかに描かれた人間ドラマだった。

 

ところが今作では盗みに巻き込まれる側の事情は描かれるが、巻き込む側の橋爪功演じる伊兵衛の内面や背景はほとんど描かれない。

穏やかそうな笑みを常に浮かべ、甘い言葉で酒屋で顔を合わせる4人の男たちを危険な仕事へといざなっていく。眼光の鋭さや言葉の端々から有無を言わせぬ凄みを時々感じさせる。何を考えているのか分からない狡猾で不気味な得体の知れない男としての伊兵衛が一貫して描かれている。

伊兵衛のメフィストフェレスのようなキャラクターのおかげで今作はサスペンス、ノワール色が強く、緊張感のあるドラマが展開される。

 

また今作は犯罪ものの1ジャンルである強盗もの、いわゆるケイパーものの印象が強い。例えば伊兵衛が仕事仲間を集めるシーン。伊兵衛はなぜこの4人の男を選んだのか。闇の世界で仕事をする伊之助は度胸、浪人(緒形直人)は腕っぷし、若旦那(中村蒼)は夜目が利く、老人(大地康雄)は手先が器用で錠破りができるなどそれぞれの特技が何気なしに映像で語られる。伊兵衛が足がつきにくいということ以外で盗みの素人を仲間にする理由がしっかり描かれている。

こうした1つ1つのシーンが作品のリアリティと緊張感をより高めてくれる。

 

人間模様をしっかり描きつつも情緒だけに帰結しないサスペンス、ノワール色の強い刺激的な魅力にあふれた時代劇だ。

 

他にも気だるげで冷たそうだが不器用な優しさを持ち、暴力を生業にしながらも殺しという一線を越えないよう踏みとどまっている伊之助という男を危うい雰囲気と色気たっぷりに演じている主演の瑛太が素晴らしいとか、ケイパーものによくある破滅へとむかう皮肉なドラマに意外性があるとか、提灯に群がるヤモリが男たちを意味してるようで不気味とか好きなところは沢山ある。

 

時代劇専門チャンネルでまた放送されると思うので気になった人はそちらで見てみるといいと思います。

 

 

『闇の歯車』(主演:仲代達矢)  「闇の歯車」新旧2作を見ての感想

(画像なし)

1984年 放送

放送局

フジテレビ系

原作

藤沢周平

監督

井上昭

脚本

隆巴(宮崎恭子

キャスト

仲代達矢役所広司東野英治郎、鷲生功、殿山泰司益岡徹ほか

 

 

内容紹介

仲代達矢扮する盗人・伊兵衛と底辺の人々の哀歓を細やかに追う人情時代劇。絵師の伊兵衛は、様々な事情から大金を必要としている男たちを集めた。遊び人の佐之助、浪人の清十郎、夜具商の仙太郎、老人の弥十の四人。実は伊兵衛は盗人で素人を仲間にして、札差の妾宅を狙っていたのだ。(テレビドラマデータベースより)

 

 

感想

『闇の歯車』仲代版と瑛太版の2作がやっと見れた。この2作どちらも全く違うアプローチで映像化していたのが面白かった。ここでは仲代版についていろいろ書いていく。

 

まず主役が異なる。瑛太版では瑛太演じる佐之助が主役だが、仲代版では仲代演じる伊兵衛が主役だ。伊兵衛は行きつけの居酒屋の顔見知りたちに押し込み強盗の話を持ち掛ける。

伊兵衛の誘った男たちは皆訳アリ。ゆすり、脅しを生業にしている裏社会に片足が浸かった佐之助(役所広司)、病気の妻がいるうえに敵持ちの浪人清十郎(益岡徹)、結婚が近いのに別れられない愛人がいる仙太郎(鷲生功)、娘に邪険に扱われて家に居場所がない前科者の老人弥十(殿山泰司)。彼らの気晴らしは行きつけの酒屋でちびちび酒を飲むことくらいだった。

 

裏社会から足を洗って惚れた女を身請けしたい、妻の介護代が必要、愛人の手切れ金がいる、家から出て新天地で気軽に暮らしたい。スケールは小さいが現代人でも想像、共感できる何とも生々しい悩みと願望をそれぞれが抱えている。

 

黒い影、闇が深い画。希望のない暮らしを象徴するかのような消え入りそうな灯り。苦しい生活に追い打ちをかけるように降りしきる雨。うだつの上がらない彼らの身の上を表すような情感のある画作りが印象的だ。この情感こそが今作の特徴といえるだろう。

 

新旧「闇の歯車」の味わいを異にしているのは伊兵衛というキャラクターの描かれ方の違いによるものが大きい。素人たちを押し込み強盗に誘う得体の知れない存在。素人を誘ったのは足もつきにくいし、小市民性のおかげで口は堅いし、欲張ってバカな行動も起こさないと見越してのこと。これだけだと伊兵衛は狡猾で不気味な男に見える。

今作では伊兵衛の人間性についても細やかに描写されている。伊兵衛はひょんなことから夫に勘当された近所の女房を家においてやることになるが、女とのやりとりで伊兵衛はどんな人間か段々と分かってくる。

雨に濡れた女のために火を焚いてやる伊兵衛。火の灯りに照らされた伊兵衛の顔は優しさに満ちている。伊兵衛という人間を血の通った情のある一人の人間として描いている。物語のラストにもそれが表われている。

 

5人は入念な準備のもと不吉な時刻とされ、人通りがぱったり途切れる昼と夜が移り変わる逢魔時に押し込みを決行する。途中伊兵衛と佐之助が予期せぬトラブルに見舞われながらも金を盗むことに何とか成功する。しかし初めから決まっていたことなのか、逃れられぬ皮肉な運命が5人を待ち受けていた。

 

他にも清十郎を追ってきた侍(河原崎次郎)の苦労してきた様子が見た目だけでわかるビジュアルとか、佐之助と雇い主の元締めの立場と力関係が映像で語られているとかセリフに頼らず画で見せる印象的なシーンがいくつもある。

 

今作だけでも十分楽しめるが瑛太版と見比べるとより一層面白さを発見できると思う。

 

『闇の歯車』(仲代版)は現在アマゾンプライムビデオの時代劇専門netでみることができる。

 

 

 

『薄桜記』 「決算!忠臣蔵」公開ということで… 変わり種忠臣蔵映画 その3

1959年11月22日 公開

配給

大映

原作

五味康祐

監督

森一生

脚本

伊藤大輔

キャスト

市川雷蔵勝新太郎、真城千都世ほか

 

 

内容紹介

浪人の中山安兵衛は叔父の助勢に高田馬場へ駆けつける途中、旗本の丹下典膳と知り合い、彼の助言によって決闘の相手を打ち倒した。典膳は同門の知心流の加勢をしなかったことを非難されて道場を破門になり、安兵衛もまた堀内流を破門された。ともに上杉家江戸家老の名代の妹・千春へ思いを寄せる二人は偶然に翻弄され、流転の運命を辿る――。(amazon 内容紹介より)

 

 

感想

忠臣蔵映画には外伝ものがいくつかある。松本俊夫の「修羅」、深作欣二の「忠臣蔵外伝 四谷怪談」等がある。今作もそんな忠臣蔵外伝の1つだ。

主演は市川雷蔵。四十七士の一人中山安兵衛と友情を結ぶ隻腕の剣士丹下典膳を演じる。

今作では市川雷蔵という役者が持つ魅力を存分に堪能できる。

 

この丹下典膳という男は悲劇的な運命が常に身につきまとう男だ。中山安兵衛(勝新太郎)に好感を抱いてしまい、高田馬場の決闘で安兵衛の相手が典膳の剣の同門であっても助太刀せずに姿を消した。仲間を捨てたと責められた典膳は道場を破門される。また典膳には将来を誓い合う千春(真城千都世)という女がいた。しかし典膳を恨む元同門の男たちに千春が凌辱されてしまう。千春に咎がないよう取り計らう典膳だったが、互いに思い合っていてもどうしても千春を受け入れることができない。同門たちへの復讐を決意した典膳は千春と離別するが、怒った彼女の兄に問い詰められても千春の秘密を守るためワケは話さなかった。激情した義兄は刀を抜いたが典膳はその一刀を避けなかった。片腕を代償に典膳は千春たちの前から姿を消した。

 

剣を破門される、婚約者を犯される、片腕を落とされる。これほど悲惨な目にあっても雷蔵から感じるものは惨めさではない。一人の女を思いやり、自らの信念を貫く気高さ、美しさだ。

 

そして雷蔵の魅力が集約されているのがラストの殺陣だ。

 

典膳は隻腕となっても剣の腕を買われ、吉良の警護に雇われる。そこで千春を凌辱したかつての道場生たちを見つけ復讐を開始する。しかし思わぬ反撃にあい、足を銃撃されてしまう。片足まで使えなくなってしまった典膳。道場生たちは仲間の浪人たちを大勢引き連れ典膳宅に押し入る。そこには今にも絶えてしまいそうに横たわる典膳の姿があった。とうてい勝ち目はないが典膳は浪人たちに勝負を申し込む。

ここからが凄まじい。

浪人たちは典膳の申し入れを受け入れ、戸板を担架にして寝たままの典膳を庭に運ぶ。横になったまま鞘を口にし、刀に手をかける典膳。浪人たちがいよいよ襲い掛かってくる。典膳は寝たまま一人斬り伏せる。驚く浪人たちだが、数にものを言わせ斬りかかる。地面を転がり回り、何とか膝立ちになり必死に一人また一人斬っていく。しかし手傷を負わされ次第に弱っていく典膳。それでもなお斬りかかっていく。

雪が降りしきる中、静かに行われる決闘。典膳は弱り斬られても声をあげない。しかしこの殺陣は言い知れぬ迫力に満ちている。死の淵にある男の儚くも燃える最後の執念、情念が溢れている。

 

様々な悲劇に見舞われ、最後は這いつくばりながら戦う典膳。無様で泥臭い印象を与えかねない役だが、雷蔵からは悲劇的な儚さと美しさを感じる。しかし決してキザではなく一人の人間の情念を醸し出している。

 

今作は美しさと気品を具えながら、情感にもあふれている市川雷蔵という稀有な名優を堪能できる傑作だ。

 

 

 

『最後の忠臣蔵』 「決算!忠臣蔵」公開ということで… 変わり種忠臣蔵映画 その2

2010年12月18日 公開

配給

ワーナー・ブラザーズ映画

原作

池宮彰一郎

監督

杉田成道

脚本

田中陽造

キャスト

役所広司佐藤浩市桜庭ななみ、安田成美、片岡仁左衛門ほか

 

 

内容紹介

TVシリーズ北の国から」を手がけた杉田成道が、池宮彰一郎の人気小説を役所広司佐藤浩市主演で映画化。赤穂浪士の吉良邸討ち入りで、大石内蔵助率いる46名が切腹により主君に殉じた中、密かに生き残った瀬尾孫左衛門(役所)と寺坂吉右衛門(佐藤)という2人の武士がいた。討ち入りの事実を後世に伝えるため生かされた寺坂は、事件から16年後、討ち入り前夜に逃亡した瀬尾に巡り会い、瀬尾の逃亡の真相を知る。(映画.comより)

 

 

感想

今作は前回紹介した「四十七人の刺客」の脚本家であり原作者でもある池宮彰一郎が原作だ。「四十七人の刺客」の終盤で大石に愛人と子どもを託された瀬尾孫左衛門が今作の主人公。吉良邸討ち入り後に生き残った彼の生き様が描かれる。「四十七人の刺客」の実質続編といえる作品で今作と合わせて2本見るとより楽しめるだろう。

 

吉良邸討ち入りから16年、瀬尾孫左衛門(役所広司)は名前も身分も変え、人里離れた地でひっそりと生きていた。そこにはかね(桜庭ななみ)という少女がおり、彼女こそ大石が吉良邸討ち入り前に孫左衛門に託した忘れがたみであった。孫左衛門はかねの母亡き後、男で一つでかねを育てていた。

 

大石の最後の命令というか頼みを16年間ただひたすらに守り遂行する孫左衛門を演じる役所広司の演技が素晴らしい。孫左衛門は元々大石の側に常に仕えていた用人で誰よりも大石とともに死にたかったであろう人物である。大石への思いが人一倍強い孫左衛門は託された使命を守ろうとノイローゼかというくらい用心深く行動している。かねの身を守るために誰に対しても穏やかでありながら壁が一枚あるような、相手に深入りさせない張りつめた雰囲気をまとっている。用心深い一方彼は嘘のつけない誠実な男だ。元赤穂藩士に再会し、なじられ蹴られても反抗も言い訳もしない。頭を下げたまま使命があると言い続ける。かつての親友寺坂吉右衛門佐藤浩市)に再会し、秘密を知られたときは何も言わずに斬りかかる。使命を秘めた自らの悲しみ苦しみを吐き出すかのように斬りかかる孫左衛門の姿は悲壮感たっぷりだ。

口下手で誠実でおよそ密命を託されるのに最も向いていない男が、誰よりも大石とともに死にたかった男が必死に生き抜いて苦しみながらも使命を果たそうとする姿に泣かされる。

優しさ、狂気、虚無感、愛情と様々な感情入り混じる表情・演技を役所広司が見せてくれる。

 

役所広司の圧倒的な演技に負けず劣らずの演技を見せているのが、かねを演じる桜庭ななみだ。大石の娘である宿命を背負ったかねの、凛と大人びた雰囲気を演じている。自らの運命を理解しながらも育ての親である孫左衛門に惹かれており、その思いに気づかない孫左衛門に思わず腹を立ててしまう少女相応の感情も見せてくれる。そんなかねだが、父とそして孫左衛門、さらに元赤穂藩士たちの思いを背負い輿入れを決める。輿入れ前に嫁入り衣装で最後に孫左衛門と穏やかに抱擁を交わす。それはかね自らの思いとの決別の時、さらに孫左衛門の長い使命の終わりの時でもあり、涙なしには見られない。

少女と大人の間と、さらにそこから大人へと変わっていく姿、どちらをとっても繊細で複雑な女性の瞬間を見事に演じている。

 

最後討ち入りに参加できなかったかつての赤穂藩士やゆかりのものが続々と嫁入りにはせ参じてくる場面、そして孫左衛門の本懐が明らかになり、遂げる場面は心ふるわされる。

 

行灯の火の自然な温かみが感じられる落ち着いた画作りと俳優たちの繊細な演技があわさり、かみしめるような情感が味わえる作品だった。

 

『四十七人の刺客』 2019年「決算!忠臣蔵」公開ということで… 変わり種忠臣蔵映画 その1

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1994年10月22日 公開

配給

東宝

原作

池宮彰一郎

監督

市川崑

脚本

池上金男池宮彰一郎の脚本家としてのペンネーム)、竹山洋市川崑

キャスト

高倉健中井貴一宮沢りえ岩城滉一、宇崎竜童、黒木瞳西村晃森繁久彌

 

 

内容紹介

大石内蔵助と吉良・上杉側の司令塔、色部又四郎との謀略戦争を軸に、内蔵助の人間像を追いつつ新しい視点で描いた忠臣蔵映画。従来の″忠臣蔵″の物語に、現代的な情報戦争、経済戦争の視点を当て実証的に描きベストセラーとなった池宮彰一郎の小説の映画化で、監督は「帰ってきた木枯し紋次郎」の市川崑。脚本は池上金男池宮彰一郎の脚本家としてのペンネーム)と市川、竹山洋の共同、撮影は五十畑幸勇が担当。(映画.comより)

 

 

感想

忠臣蔵について一から説明するとキリがないのでここでは簡単な説明とさせていただく。

忠臣蔵の原作は江戸時代元禄に実際にあった赤穂事件をもとにした人形浄瑠璃、歌舞伎の演目『仮名手本忠臣蔵』。なおこの作品では事件の起きた時代や人物を別のものに置き換えている。江戸時代の元禄、江戸城松の廊下で赤穂藩藩主浅野内匠頭高家肝煎吉良上野介に斬りつけた刃傷事件が起きた。幕府は内匠頭を一方的に断罪し切腹、吉良はお咎めなしだった。その報せを聞いた赤穂藩国家老大石内蔵助は幕府に追従するフリをしながら志をともにする同士(いわゆる四十七士)とともに主君の無念を晴らすために吉良邸討ち入りを計画し、実行。幕府や吉良の後ろ盾上杉家の厳重な警戒網をくぐり抜け見事吉良を討ちとる。

 

以上が非常に簡単な忠臣蔵の説明だ。忠臣蔵は実際の事件をもとにしたフィクションで様々な見せ場が盛り込まれている。忠臣蔵モノは戦前主君のために吉良を討つ「忠君愛国」を描いていたが、戦後の作品は一方的な手打ちをした幕府への「体制批判」の色が強い内容が多い。今に至るまで忠臣蔵はさまざまな手を加えられ、色々な作品が生まれている。

いきなり変わり種忠臣蔵を紹介するのも申し訳ないので正当派忠臣蔵を2本紹介する。

1956年公開 東映の「赤穂浪士 天の巻・地の巻」1985年日本テレビで放送されたドラマ「忠臣蔵がいいだろう。とにかく見せ場たっぷりの泣かせる忠臣蔵でいわゆる忠臣蔵とはどういったものか楽しく知ることができる。

 

ここでようやく『四十七人の刺客』の紹介に入るが大体の忠臣蔵ものでは吉良の浅野内匠頭に対するひどい仕打ちが描かれ、四十七士たちが吉良を討つに足りる大義名分が描かれる。このシーンがあることで見ている側はラストの討ち入りにカタルシスを感じる。ところがこの映画では松の廊下のシーンは一切描かれない。浅野内匠頭が吉良に斬りつけた理由も明らかにされない。内匠頭は切腹、吉良はお咎めなしの裁定が下される。そして赤穂藩の取り潰しが決まる。

吉良びいきの裁定だが浅野内匠頭がとんでもない失態を犯したとも考えられるし、真実は吉良以外わからない。

高倉健演じる大石はたったこれだけの情報しかない中、特に真実に固執せず躊躇なく吉良の後ろ盾柳沢、上杉両家の面目を潰す目的で吉良邸討ち入りを即決する。大石を演じる高倉健のいつもの寡黙で堂々と構えた姿が頼もしい一方、容赦のない冷酷さも感じる。

ここから大石と上杉の江戸家老色部又四郎との権謀術数を用いた情報戦が展開される。色部を演じるのは中井貴一。大石同様ポーカーフェイスの策士を演じている。大石たち赤穂浪士は吉良の悪評を流布し、市井に反吉良の感情を植え付けたりとえげつない策を使う。大石の指図でマシーンの如くこれらの作戦を実行する赤穂浪士たちも不気味だ。

いよいよ終盤吉良邸に討ち入り、激戦を繰り広げ、大石は吉良と対峙する。ここで大石は吉良と言葉を交わすが衝撃の一言を言い放つ。

吉良邸討ち入りには武士として生きる大石が描かれる

 

 冷徹な情報戦が見どころの一方、もう一つの見どころは大石と女たちとの関係だ。

ここでは一人の男として大石が描かれている

高倉健演じる大石。なんと浅丘ルリ子黒木瞳宮沢りえ3人も愛する女がいる。本妻が浅丘ルリ子黒木瞳は昔からの女、そして宮沢りえは吉良邸討ち入りを計画している最中に恋に落ちる女だ。武士が妻と妾を持つことを自然に描いた作品は少ない。大石は3人のうち誰かを蔑ろにしていることはなく、皆それぞれに愛情を注いでいる。

物語終盤討ち入り前に大石は宮沢りえ演じるかるとの間に子ができる。

死を覚悟した討ち入り前に、情報戦の真っ最中に3人の女への行き届いた配慮さらに子までつくるとは高倉大石、不器用どころかとんでもなく器用な男である。

 

雰囲気が全く違う謀略のドラマに男女のドラマを取ってつけた感も否めないがそのアンバランスさ、不自然さに不思議な感覚を覚え、楽しむことができた。

 

今作はDVD以外にamazonamazonプライムビデオではない)、U-NEXTの配信でも見ることができます。 

 

『将軍家光の乱心 激突』 「多十郎殉愛記」公開 中島貞夫の時代劇 その4

1989年1月14日 公開

配給

東映

原作

中島貞夫松田寛夫

監督

降旗康男

脚本

中島貞夫松田寛夫

キャスト

緒形拳千葉真一松方弘樹丹波哲郎長門裕之、二宮さよ子、京本政樹織田裕二ほか

 

 

あらすじ

将軍継承に絡み我が子・竹千代を殺そうとする徳川家光と、それを守ろうとする藩士達との攻防を描く。原作・脚本は「姐御(1988)」の中島貞夫と「花園の迷宮」の松田寛夫が共同で執筆。監督は「別れぬ理由」の降旗康男、撮影は「恐怖のヤッチャン」の北坂清がそれぞれ担当。主題歌は、THE ALFEE(「FAITH OF LOVE」)。

 

 

感想

今作は中島貞夫の監督作ではないが、個人的に中島貞夫の時代劇から外せない一本だ。

チャンバラ映画が失われつつある時代に1978年に『柳生一族の陰謀』が、1981年に『魔界転生』という大型時代劇が公開された。映画界でチャンバラ映画が失われつつある時代に立て続けに公開されたこの2作は血沸き肉躍る活劇にあふれていた。そして両作に主演した千葉真一萬屋錦之助若山富三郎という時代劇スターに負けない素晴らしい演技、アクションを披露した。

時代劇が、チャンバラが映画界に戻きたと思ったのもつかの間、これに続けと言ったチャンバラ映画が現れないまま8年が経過し、とうとう1989年に今作が公開された。

こうした文脈を踏まえて見ると今作をただのチャンバラ映画としてみることはできない

 

今作の見どころは竹千代を守るの凄腕の傭兵たちと家光の命により竹千代を狙う忍者たちが繰り広げるチャンバラに次ぐチャンバラの大活劇だ。

傭兵のリーダーは緒形拳、忍者のリーダーは千葉真一。千葉は出演だけでなくアクション監督として彼が率いる超絶アクション集団ジャパンアクションクラブJACとともに存分にアクションをみせてくれる。

 

物語冒頭から怒涛のアクションの連続だ。山奥で湯あみをしている竹千代を狙って家光の刺客が押し寄せてくる。矢の雨が降り注ぎ、次々と竹千代の側近がやられていく。その時緒形拳たち傭兵が木からロープで飛んで助けに現れる。縦横無尽に展開されるアクションにいきなり度肝を抜かれる

何とか生き延びた竹千代だが家光から元服式をとり行うということで江戸城に来いとの命令が下る。明らかな罠だが竹千代一行は家光の刺客との死闘を覚悟し、江戸城へ向かう。緒形拳率いる傭兵集団の面々も個性的で面白い。中国武術使い爆弾使い鞭使いが忍者、侍と死闘を繰り広げる。爆弾使いを演じるのは若かりし織田裕二だ。

 

途中千葉真一たち刺客の罠を様々な戦略でくぐり抜けていった竹千代一行だがとうとう戦いを避けられない状況になる。THE ALFEEの歌がガンガンかかる中で忍者たちとのすさまじい馬上戦が始まる。馬から馬へ飛び移る、馬からバンバン落馬するといった大スタントの連続だ。傭兵たちは死闘の中、一人また一人と命を落としていく。その死に様までも凄まじい。敵を巻き込んだ自爆自らの体に油をかけ火をまとい敵に組みついて焼死死でさえも大活劇といて描いている。

 

集団戦のダイナミックさに圧倒されるが1対1はどうなのか。決闘シーンもまた素晴らしい。終盤宿場町で緒形拳千葉真一の決闘が展開される。この決闘が凄い。刀と刀のアクション。体と体をぶつけ合い、組み打つ肉弾戦。家屋をブチ破り、建物の内外を縦横無尽に駆け回るアクション。1対1でこれだけ多彩で密度のある立ち回りを繰り広げる

 

消えゆく大活劇チャンバラ映画に新しい息吹を与え、よみがえらせた降旗康男千葉真一松田寛夫らと、そして中島貞夫

その中島貞夫が手掛ける「多十郎殉愛記」が2019年4月12日に公開される。堂々「ちゃんばら映画」と宣言する今作が非常に楽しみだ。